前回に引き続き、PaidyのUXデザインについてインタビュー内容を基にご紹介させていただきます。前回の記事では、全社的にUXに取り組んでいるPaidyが実践する、UXデザインのプロセスやチーム作りについてご紹介しました。
 まだご覧になっていない方は、こちらからご覧いただけます。
https://ux-media-qtm.com/paidy-ux-2/
 今回の記事ではリサーチに焦点を当て、UXリサーチャーの玉島氏、コンシューマー/マーケットリサーチャーの橋本氏にお話を伺いました。リサーチ部門内での連携方法や、UXデザインにおけるリサーチの重要性を紐解いていきます。

■リサーチ部門について

 新規機能を開発する際と既存機能を改善する際、どちらも最初のステップとして行う作業は「ユーザー理解」です。ユーザーが何を考え、何に困っているのかを徹底的に分析し、ニーズを導き出します。Paidyでは、エクスペリエンスチームの UXリサーチに加えて、データサイエンス、コンシューマー/マーケットリサーチの部門が担当しています。(図:ペイディのエクスペリエンスチーム)

■3つの部門の役割・連携
 3つの部門がそれぞれの専門分野でリサーチを実施し、ユーザー理解を進めていきます。UXリサーチャーの玉島氏とコンシューマー/マーケットリサーチャーの橋本氏に、2つのリサーチ部門が持つ役割の違いと、データサイエンスとの連携について伺いました。 

●UXリサーチ部門
 UXリサーチャーは、プロダクトの開発関連調査を担当しています。ユーザーインタビューやコンセプト調査、ユーザビリティテスト、ダイアリー調査などのユーザー調査を実施し、UXデザインの専門知識を基にユーザーのニーズを深く探索する役割を担っています。
 調査を実施するタイミングは、基本的には新規機能開発、既存機能改善等のプロジェクトベースでニーズがあった場合に実施をします。最近は大きいプロジェクト以外にも、デザインチームから「ユーザーの観点が知りたい」というような調査依頼が入ることもあり、Paidyでは気軽にリサーチを依頼できる体制が整えられています。

●コンシューマー/マーケットリサーチ部門
 コンシューマー/マーケットリサーチ部門は、マーケティング関連の調査を担当しています。顧客満足度調査や、サービスの認知、ブランドイメージのトラッキング、媒体広告における印象調査等を、定量的なアンケート調査やソーシャルリスニングを活用して実施しています。
 実施するタイミングは、お客様満足度調査や、認知・ブランドイメージのトラッキング調査等は定期的に行っており、その他の調査は、UXリサーチャーと同様、プロジェクト単位で行っています。

●データサイエンスとの連携
 データサイエンスは、膨大なデータの中から、顧客体験向上に繋がるデータを抽出する役割を担っています。細かいセグメントごとに、データに問題点がないかをデータサイエンティストが検証をし、そこにリサーチャーがユーザー視点である文脈をつけていく作業を、3つの部門が同時進行で進めています。リサーチャーが深い調査を行う前に、データサイエンティストが「狙いを定める」役割を果たしていると言えます。調査の切り口は、効率的なリサーチをするために欠かせません。調査の目的に合わせてデータをできるだけ細かいセグメントで抽出することで、効率的に調査や分析を行うことができ、より深いインサイトが得られます。

 3つの部門で共通している点は、課題ベースで調査手法を柔軟に決定する点です。ビジネス課題が出た際に、どのような手法で調査を進めれば、その課題が解決できるかを、それぞれの専門分野を用いながら組み合わせ、連携しながら調査を進めることで高い解像度のインサイトが得られます。

■UXデザインにおけるリサーチの重要性
 新たなサービスや機能を考える際に、まずは仮説としてバリュープロポジション(提供価値)を議論します。実際にその価値提案がユーザーニーズに合っているのか、またセグメント別に考えた時、どの層にどのように受け入れられるものなのかを具体的に把握するために、ユーザー調査は重要な役割をしています。
 これまでもペイディでは、初期のアイデア調査から、具体的なコンセプトの検証調査まで、常にユーザー視点をサービス開発に取り入れて、顧客体験を洗練させてきています。

 玉島氏はリサーチの重要性について、自身の経験を基に次のように語ります。「初期アイデアの段階では、 実装する価値の有無や優先度などが議論になります。そこで実際にユーザー調査をしてみると、想定していたバリューに追加して、ユーザー視点の新たなバリューが鮮明に見えてきます。それをセグメントごとに、誰にどういうニーズがあるのかを整理して提示すると、デザイナーやステークホルダーのアイデアも刺激され、我々が目指すべき顧客体験が具体化され、ソリューションが明確になるのです。このユーザー自身の反応や視点は、初期アイデアに刺激されて出てくることも多く、共創している感覚に近いと感じています。」
 単に使い心地を向上するだけではなく、「なぜ人々がこのサービスを使っているのか」という文脈や背景を深く理解した会社が作るサービスは、時代の変化にも柔軟に対応し、進化をし続けられるサービスと言えます。ユーザーの本質的な部分を常に探索していく取り組みは、ユーザーとのエンゲージメントを向上させ、ユーザー体験を常にアップデートすることに繋がります。リサーチはユーザー理解の解像度を上げ、サービス全体のユーザー体験を根源的に支えています。

 また、橋本氏はリサーチの役割について、組織内と世間のギャップに言及して、次のように語っています。「定性調査と定量調査の繰り返しの循環が、組織内の認識とユーザーや、まだサービスを利用していない層との認識のギャップを埋めていくことにも繋がります。例を挙げると、Paidyのメンバーは、そもそも多国籍ですし新しいものやサービスをどんどん試すことに全く抵抗がない人も多いですが、世の中にはそうではない人もいるため、会社と世間との認識のギャップを埋めていく作業でもあります。」
 ペイディも含め金融サービスは、得てして初めて使う消費者が慎重になる傾向があります。そのため、ユーザーが抱える不安要素や、事前に知りたい情報を明らかにすることが、信頼性を醸成し、利用率・継続率向上に繋がります。社内の常識で物事を判断せず、ユーザーやまだペイディを利用していない方の気持ちや、不安な要素に気づくこともリサーチの重要な目的の一つです。

■リサーチの対象
 リサーチの対象は幅広く、一見関係のないように見られる人の意見や世の中の動向が、ユーザー体験の向上に大きく役立つことがあります。そのため、Paidyでは購買行動に関する意識調査や、ショッピングトレンド調査等、幅広いリサーチを行い発信しています。また、ユーザーがどのような生活文脈の中でペイディを利用しているのか細かく把握した調査を行うことで、得られるインサイトの質が高まります。サービスを利用するユーザーには、様々なタイプの方が存在するため、利用頻度や利用履歴などあらゆる角度でセグメントして、ピンポイントなリサーチをすることで、得られるインサイトの頻度が高まり、ユーザー体験向上へと繋がります。例えば、現在ペイディを使っているユーザーだけではなく、まだ使っていない消費者が、「なぜペイディを使っていないのか」を明らかにすることは、既存のサービスを改善し利用者を増やすことだけではなく、ユーザー体験の質を向上することにも大きく繋がります。

 今回は、Paidyのリサーチについて、それぞれの部署の役割やUXデザインにおける重要性を紹介させていただきました。リサーチの重要性に関して、取材にご対応いただいたお二方が、ご自身の体験に基づいた独自の見解を持っている点が印象的でした。
 次回の記事では、定量調査・定性調査の使い分けや、ユーザーインタビューのポイント等、より実践的な内容を紹介させていただきます。2024年1月10日公開予定です。

■取材にご協⼒いただいた企業様
 株式会社Paidy
  所在地:〒107-6212 東京都港区⾚坂 9-7-1ミッドタウン・タワー12階
  代表取締役会⻑:ラッセル・カマー
  代表取締役社⻑ 兼 CEO:杉江陸
  設⽴:2008年
  事業内容:あと払いサービス「ペイディ」
  コーポレートサイト:https://corp.paidy.com/