皆様はお買い物をする際に、オンラインストアと実店舗、どちらでお買い物することが多いでしょうか。
多くの商品がオンラインでも購入が可能になった現代、ユーザーはその時に便利な方を選び、状況に応じてそれらを使い分けていると言えるでしょう。
 そのような顧客の購買行動を踏まえ、オンラインとオフラインのサービスを融合させたOMO(Online Merges with Offline)を活用したサービスが国内外で増加しています。
 今回は、このOMOの仕組みを活用した店舗、「CHOOSEBASE SHIBUYA」(以下、CHOOSEBASE)を運営する株式会社そごう・西武様へ取材に行ってきました。


 株式会社そごう・西武様(以下、そごう・西武)は、フルラインアップの大都市型店舗からデイリーニーズに対応したショッピングセンター型店舗まで、立地特性を生かした多様な店舗展開を行っている会社です。

■OMOとは

 OMOとは、オンラインとオフラインを分けて考えず、行動を一連の流れで捉える考え方のことを指します。
 今までの小売り販売方法は、オンラインとオフラインを区別し、オンラインストアは実店舗の付加価値として副次的な役割を果たしていました。しかし、「いつも実店舗で商品を買っている人に、アプリやオンラインストアも使ってもらえるようにしよう」という、オフラインからオンラインへ誘導する考え方は、企業目線であると言えます。
 顧客からすると、「この商品はどうしても実店舗で購入したい、オンラインで購入したい」というように、購入方法から商品を選んでいるわけではなく、その時便利な方を選んでいるだけと言えます。仕事帰りにビールをコンビニで買うシーンと、ビールが好きな旦那のために妻がビールをECサイトでまとめ買いするシーンを比較すると、商品は同じでも便利な購入方法は状況によって違うことが分かると思います。
 このように、「顧客が状況に応じてオンライン・オフラインを自由に選択できるようにする」という、顧客目線でサービスを提供できるようテクノロジーを活用した状態をOMOと言うことができます。

※CHOOSEBASE SHIBUYAの店内

■OMO型店舗CHOOSEBASE SHIBUYAとは
 CHOOSEBASEは、次世代の買い物体験を実現するOMO型店舗です。オンラインストアと実店舗のサービスを統合させることで、顧客目線での快適な購買体験を実現しています。
 CHOOSEBASEの実店舗では、買い物カゴを持たない購買体験が可能です。QRコードを読み取ることで商品の詳しい情報を知ることができ、購入したい商品はオンライン上の買い物カートに入れます。決済もオンライン上で行うことができ、商品の受け取りは、店舗または配送から選ぶことができます。

※CHOOSEBASE 店内に掲示されている購入方法を示したサイン

 では、実際にOMO型店舗はユーザー体験をどのように便利にしているのでしょうか。物理的な側面と、ユーザー体験の質という2つの観点で見ていきたいと思います。

※オンラインで注文した商品を受け取るカウンター

■物理的側面
顧客を待たせない効率的な買い物体験を実現
 CHOOSEBASEでは、オンラインストアにある商品のおよそ半分を実店舗で展示しています。実店舗では、時期に合わせたおすすめの商品を並べ、それ以外の商品はオンラインストアで紹介をしています。
 CHOOSEBASEでは、オンラインストアの在庫と実店舗の商品を全て店舗で管理しています。このような在庫管理の仕組みがあることによって、顧客は実店舗・オンラインストアに関わらず、実店舗ですぐに商品を受け取ることができます。従来の販売方法であれば、「この店舗には展示されている商品の在庫しかないから、オンラインストアの商品は後から購入しよう」と別々に購入をする必要がありましたが、OMO型店舗ではこれを1回の購入にまとめることが出来ます。「顧客を待たせないこと」や、「効率的に目標達成ができること」は、顧客体験価値を向上させ、結果的にサービス提供側への信頼感へと繋がります。

作業の効率化とサービスの充実
 OMO型店舗のCHOOSEBASEでは、商品を選び、決済をするまでの流れを顧客自身で行うため、店舗スタッフは基本的には商品の受け渡しのみの作業で、購買が成り立ちます。通常の店舗よりも、はるかに少ない人数で運営をすることができ、作業内容に関しても、人だからこそできるクリエイティブな業務や、コミュニケーションの業務に多くの時間を割くことができます。
 店舗で得られる顧客の反応は、店舗の戦略やブランドの方向性を考えるために、貴重な一次情報です。店舗で得られた肌感をUXへと還元していくことで、顧客のニーズが反映されたサービスへと成長していきます。

■ユーザー体験の質の側面
快適な顧客体験で長期的な関係性を築く体験提供型のビジネスへ

 従来はそれぞれの接点が別々に、購入を目的に活動する「売り切り型」のビジネスが行われていました。しかし、商品のコモディティ化やマーケットの成熟が進んだこと等を背景として、新規顧客を多く囲い込むよりも、長期的に取引を継続してくれる顧客との関係を構築することが重要視されるようになってきました。そのような関係性を築くためには、顧客にとって、より快適な体験を提供する「体験提供型のビジネス」が主流になりつつあります。
 CHOOSEBASEは、オンラインとオフラインの接点が、顧客の成功を支えるという共通の目的に向かい、1つのサービスとして繋がっています。実店舗は販売を目的とした施設ですが、サービスの中の1つの接点にすぎず、顧客は必ずしもそこで購入を即決をする必要はありません。「好みのブランドに出会うこと」や、「気になる商品を比較・検討を重ねてからオンラインで購入すること」は、継続的な関係性に繋がる重要な体験であるためです。実店舗では、商品の知識を口説く説明するような接客もないため、顧客は気軽に店舗を訪れることができます。顧客が商品に出会い、比較・検討し、決断をするという全てのフローにおいて、高い自由度を持つストレスフリーな購買体験が実現されています。
 OMOによりそれぞれの接点が1つに繋がり、顧客との接点を高頻度に持てるようになったことで、時間や場所の制約が減り、より顧客視点の快適なサービスを実現できるようになりました。快適な購買体験は、継続利用や満足・好感度の上昇に繋がり、長期的で良好な関係性へと発展していきます。

統合されたデータから得られる鮮度・解像度の高いニーズ
 CHOOSEBASEでは、オンラインストアと実店舗の商品の在庫を一括管理しており、従業員全員が全体の売れ行きをリアルタイムで把握することができます。店舗情報とオンラインストアの情報が別々に管理されていては、ほんの一部分のニーズしか把握することができません。一方で、オンラインストアと店舗が統合された情報からは全体の売れ行きが分かり、それらを時系列に整理すれば、より深いインサイトを得ることも可能です。得られたインサイトは店舗作りや接客に活用でき、顧客のニーズをスピーディーにサービスへ反映することが可能となります。

※株式会社そごう・西武デジタル戦略本部事業デザイン部新業態推進担当の坂根優 氏(奥)

 そごう・西武では、CHOOSEBASEで実現したOMO型店舗の仕組みを国内外の店舗へのサービスとして提供するRaaSの展開を進めています。RaaS(Retail as a Service)は「小売業のサービス化」を意味し、小売業の機能や仕組み等を外部にサービスとして提供すること指します。そごう広島店では、BEAUTY EDITという美容関連商品を集めたコーナーに CHOOSEBASEの仕組みを活用しています。BEAUTY EDITにある商品は、CHOOSEBASE SHIBUYAのオンラインストアや店舗でも受け取りが可能です。このように、CHOOSEBASEのOMOの仕組みを活用することで、日本各地にある店舗の商品を購入できるプラットフォームとして、「場所の制約」が取り払われた購買体験の実現が進んでいます。
 今後、RaaSの展開の幅を広げていくために、CHOOSEBASEの認知度を上げていくことを最優先で進めたいと坂根氏は語ります。そごう・西武ではCHOOSEBASEが物珍しい・映える施設でも、ショールーム型の施設でもなく、「商品の購入ができる店舗」だということを知ってもらうことで、OMO型店舗というサービスを世の中に浸透させていく活動を行っています。そのために、顧客の声を積極的にUXの改善へと反映させることで、顧客と長期的な信頼関係を築いています。
具体的に行っている改善活動については、後編の記事で紹介させていただきます。

 CHOOSEBASEのOMO型店舗とは、オンラインとオフラインを融合させることで、顧客にとっての快適な購買体験を実現した店舗です。OMOを活用することで、物理的側面からも、体験の質という側面からも、顧客とサービスに関わる多くの関係者のUXを向上させています。高頻度に顧客と接点を持てるようになったことで、時間や場所の制約が減り、顧客の成功をより強力に支えられる仕組みが印象的でした。UXを向上させることは、ビジネスの成功に直結するイメージを持ちづらく、組織全体で取り組むためには理解を得るのは困難なのが現状だと思います。しかし、それぞれの接点をテクノロジーで繋げ、共通の目的に向かい一貫したサービスを提供することが、どのように顧客体験を向上させ、ビジネスにどのような価値を持つのか、少しでも具体的なイメージを持っていただけたら幸いです。

 後編の記事では、CHOOSEBASEがOMO型店舗としての認知度を向上させるために行っている具体的な改善活動や、2年間運営をして得られた気づきについてご紹介します。9月27日に公開予定です。

■取材にご協力いただいた企業様
 株式会社そごう・西武
  所在地:〒171-0022 東京都豊島区南池袋1-18-21 西武池袋本店 書籍館
  代表者:取締役執行役員社長 田口 広人
  創業:1830年
  事業内容:百貨店事業
  コーポレートサイト:https://www.sogo-seibu.co.jp/
  CHOOSEBASE SHIBUYA公式サイト:https://choosebase.jp/