前回に引き続き、株式会社そごう・西武が運営するOMO型店舗「CHOOSEBASE SHIBUYA」(以下、CHOOSEBASE)を、UXの観点から紹介していきたいと思います。
 前編では、OMO型店舗がユーザー体験をどのように向上させているのかを紹介させていただきました。まだご覧になっていない方は、こちらからご覧いただけます。
https://ux-media-qtm.com/sogo-ux-1/

 後編では、CHOOSEBASEがOMO型店舗としての認知度を向上させるために行っている具体的な改善活動や、2年間運営をして得られた気づきについてご紹介します。OMO型店舗とは、オンラインとオフラインを融合させることで、顧客にとって快適な購買体験を実現した店舗のことを指します。

 坂根氏は、CHOOSEBASEの今後の課題に、OMO型店舗としての認知度向上を挙げています。RaaSを展開していくためにも、店舗が物珍しいだけではなく「物が買える」施設だということを知ってもらう必要があると語ります。そのためには、多くの人に受け入れられる、使いやすいサービスであることが前提となります。実際に使用するユーザーにとって使いやすいサービスであるために、店舗で行っているUX改善活動についてご紹介していきます。

※CHOOSEBASEの店内の様子

■現場で直接感じる顧客のニーズ
 店舗では、顧客が買い物をしている様子を直接見ることができるため、顧客がどのようにサービスを使っているのか、何に困っているのかを直接的に感じることができます。オンラインストアだけを運営している場合や、店舗とオンラインの両方を運営していたとしても、それらを別々に管理している場合は、ユーザーの一次情報をサービスへと反映するのは困難です。
OMO型店舗のCHOOSEBASEでは、店舗で吸い上げた顧客の一次情報を、オンライン・オフライン両方のサービスへと反映させることで体験価値を向上させています。
 店舗スタッフは、顧客に商品を渡す際に「どうやってこの店舗を見つけたのか」という質問をしたり、困っていたり何かを探している人に積極的に声をかけるようにして、顧客の声を集めています。そして、社内コミュニケーションツールを活用して、集められた顧客の声を社内で共有し、サービスへと反映しています。
 また、出店しているD2Cブランドにとっても、購入している顧客がどのようなニーズを抱えているのかを正確に把握することは困難です。そのため、CHOOSE BASEではブランドがPOPUPショップを出店する際に、新商品開発のためのアンケート調査をCHOOSEBASEで実施できるようにする等、顧客の声を収集するサポートを行っています。

■間口を広げ認知度を向上させる取り組み
 CHOOSEBASEでは、顧客自身がオンライン上で商品を買い物かごに入れ、決済までを行う方法で販売をしています。しかし、スマートフォンを使えない状況の顧客が来店した等の、イレギュラーな事態にも対応できるよう、現在は商品を直接レジに持っていくことでも購入ができるようにしています。
 また、顧客が商品を選ぶ際に、QRコードを読み込む度に複数のブラウザが立ち上がってしまい、商品を選びにくいという問題がありました。この問題を解決すべく、CHOOOSEBASEでは、よりスムーズな店舗での購買体験をサポートするショッピングアプリを開発しました。このアプリを使用することで、顧客のスマートフォン画面で複数のブラウザが立ち上がることなく、スムーズに商品を比較することができるようになりました。

■「次世代」の幻想

※CHOOSEBASE内のカフェTAILORED CAFE SHIBUYA

 CHOOSEBASEでは、OPEN当初はミレニアル世代・Z世代と呼ばれる「次世代」をターゲットにサービスを考案していました。そして、店舗がOPENした際には、狙っていた「次世代」顧客が多く訪れました。初めはカフェの内装が話題を呼び、SNSで多く拡散されたことで、更に多くの来店者数に繋がりました。しかし、この来店者数は、肝心な「商品の購入率」には結びついていませんでした。つまり、写真の撮影やカフェの利用まではしても、陳列している商品の購入には至らない顧客が多かったということです。
 狙った顧客の興味を引くことには成功しているのに、購入に結びつかない理由を模索している中で、「テーマの設定」に目をつけました。CHOOSEBASE では、半年に一度、テーマを設定し、それに沿った商品選定・店内ディスプレイを行っています。最初のテーマは「サスティナブル」で、気付きを促すキービジュアルや、環境配慮がなされた商品の販売を行っていました。これは次世代顧客の一般的な特徴として、所有物ではなく「行動」や「態度」で自己表現をするといった特徴があると言われていたためです。
 しかし、その傾向が、商品を購入する決め手とまではいかないことが判りました。世代によって共通の意識傾向があったとしても、全員がそれに当てはまるわけではないということです。マーケットの成熟化に伴い、顧客の価値観やニーズが多様化し、テクノロジーの発展が個々人の趣味嗜好や行動を踏まえて製品やサービスを最適化できるようになりました。このような時代背景を踏まえると、「属性」のターゲティングでは、顧客層の幅が広すぎたと言えます。市場全体の中から、自社に適した特定の顧客層を見つけ、そこに対して集中的なアプローチをすることが必要です。そのためには属性だけではなく、ユーザーが置かれた状況も考慮することが重要です。クレイトン・クリスティンセンが提唱した「ジョブ理論」でも言及されているように、同じユーザーでも置かれた状況によって成し遂げたい「job(成果)」や雇いたい「プロダクト」はその時々の状況によって異なります。

■定性データと定量データを組み合わせた深い分析

 数値を元にした分析によると、「次世代」顧客は購入まで至らないことが多く、商品を最も多く購入しているのは、20代後半から30代の女性だということが判りました。しかし、この情報に対して直接的に反応を示す施策では成果は見込めません。直接的に反応を示す施策とは、「この年代が欲しい商品を増やし、価格の設定も上げてみる」等が考えられます。これでは、また属性でターゲティングをすることとなってしまい、顧客の心に刺さり、長く使ってもらえるサービスにはなれません。なぜ、この属性の購入率が高いのか、結果の裏にある背景を分析することで、顧客がサービスを利用する具体的なシーンを特定でき、効果的な施策を打てるようになります。
 CHOOSEBASEでは、店舗を活用して顧客の声を拾う、実際の利用状況を観察する等して得られる定性データを活用し、より深い分析を行うことで新たなターゲティングを行いました。
 店舗では、商品を購入している顧客から「ギフト用に包装して欲しい」という声が多く寄せられていました。更に、「こういう場面に最適な贈り物を探している」という顧客からの相談も多くあったことから、「ギフト」を探している顧客が多いことが分かってきました。また、店舗を利用している顧客の様子から、「自分用に商品を選ぶ場面よりも、他人にあげる商品を選んでいる場面の方が、熱心に商品を選ぶ」ことも実感として分かってきました。
 そこで、CHOOSEBASEでは「贈り物を選ぶ場面に気軽に利用できるギフトストア」として、テーマを変更し再出発しました。
 数値を元にした結果に対して、定性データを用いて、結果になっている背景の深掘りを行えることは、OMO型店舗の1つの強みだと言えます。

※店内に掲示されているテーマを表現したポスター

■ギフトを気軽に贈るには?
 CHOOSEBASEでは、現在「なんでもないひに、ザ・シブヤギフト」というテーマでサービスを提供しています。このテーマには、「ハレの日だけではなく、日常的に感謝の気持ちを伝える手段としてギフトを活用してほしい」という想いが込められています。このテーマをサービスで表現するために、オンラインとオフラインの接点において、気軽にギフトストアを利用してもらうための工夫をしています。
 それは、ブランドの垣根を越えたギフトの提案です。贈り物をする際に、異なるブランドの商品を詰め合わせて送ることがあると思います。その際には、複数の店舗を渡り歩き、自身で梱包をする必要がありました。これは時間も労力もかかる大変な作業だと言えます。そこでCHOOSEBASEでは、シーンに合わせて異なるブランドの商品も組み合わせ、1つのギフトセットとしての購入が可能です。こうすることで、商品を選ぶ手間や包装の手間を減らすことができます。
 SNSでは「実家に帰省する際の手土産に最適なギフト」というように、具体的なシーンで商品を紹介することで、ギフトのイメージがつきやすくなるよう、工夫がされています。また、ギフト用の包装は無料で行うことができるという点も、ギフトストアを手軽に利用してもらうための工夫だと言えます。
 ギフトを贈る様々なシーンを、より具体的に表現し、顧客目線の提案を行うことで、相手に何を送って良いか分からない人やセンスに自信のない人でも、自信を持って商品を選ぶことができます。筆者は、ギフトを贈る際の障壁を1つずつ取り払うことで、顧客が相手に「想い」を伝える機会や選択肢を増やし、顧客の人間関係や生活そのものを豊かに変えていくことにも、繋がっていると感じました。

※株式会社そごう・西武デジタル戦略本部事業デザイン部新業態推進担当の坂根優 氏(右)

 CHOOSEBASEでは、顧客視点を基軸にボトムアップ型のサービス改善を行っています。「顧客の反応を見て、ニーズを分析し、サービスへ反映させ、再度顧客の反応を確かめる」という反復的なプロセスをスピーディーに行えるのはOMO店舗の強みであると言えます。その理由として、オンライン・オフライン両方にある顧客との接点から、多くのデータが得られるようになったこと、そしてそのデータを総合的に用いて深い分析が行えるようになったことが理由として挙げられます。
 今回の取材を通して、正確な分析結果を得るためには、データの量だけではなく、良質な定性データも重要な要素だと感じました。店舗スタッフの対応が失礼で不快な思いをした顧客や、メンテナンスが十分に行われていない店舗やサイトを使った顧客は、わざわざ丁寧なフィードバックをしないと考えられるためです。たとえオンラインを基軸にしたサービスであっても、「顧客目線の丁寧な姿勢」は顧客の信頼、そしてサービスの成長に繋がる重要な要素なのだと実感しました。

■取材にご協力いただいた企業様
株式会社そごう・西武
 所在地:〒171-0022 東京都豊島区南池袋1-18-21 西武池袋本店 書籍館
 代表者:取締役執行役員社長 田口 広人
 創業:1830年
 事業内容:百貨店事業
 コーポレートサイト:https://www.sogo-seibu.co.jp/
 CHOOSEBASE SHIBUYA公式サイト:https://choosebase.jp/