前回に引き続き、PaidyのUXデザインについてインタビュー内容を基にご紹介させていただきます。前回の記事ではUXリサーチャーの玉島氏、コンシューマー/マーケットリサーチャーの橋本氏にお話を伺い、リサーチ部門内での連携方法や、UXデザインにおけるリサーチの重要性についてご紹介しました。
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https://ux-media-qtm.com/paidy-ux-3/
 今回の記事ではリサーチに焦点を当て、リサーチの具体的な手法やユーザーインタビューのポイントについてご紹介します。

■Paidy が実践するリサーチ手法
 リサーチには様々な種類がありますが、Paidyではどのようなリサーチ手法を実施していて、そこにはどのような狙いがあるのでしょうか。Paidyではプロジェクト毎に行う調査に違いがありますが、今回は特に実施することの多い特徴的なリサーチ手法を教えていただきました。


プロトタイプを使ったコンセプト/ユーザビリティー調査
 新しい機能やサービス企画では、初期デザインを使ったコンセプト調査を実施します。その時々でプロセスは適宜変わりますが、まずはアンケートでコンセプトボードレベル(画像とテキスト説明程度)で利用意向などの意見を回収し、その後仮説をもとに初期プロトタイプを作成して、実際にデプスインタビューで検証をしていきます。セグメントの視点も入れて、背景を深く調査します。
 その後は、適宜改善したUXデザインを、プロトタイプを用いて検証ポイントごとにユーザービリティテストを実施しています。ユーザーがどのようにペイディを認知して利用するのかを観察し、使い心地や理解力を調査していきます。

ベータ版によるダイアリー調査
 ベータ版を用いた調査では、一部のユーザーに先行してサービスを公開し、そのフィードバックを元に改善を行いました。人工的に作った仮のプロダクトを部分的に再現し使ってもらうプロトタイプでは調査には限界があります。
 実際の生活のショッピング体験で、サービスがどのように使われ、理解されていくのかという、「一連の生活の中でどのように捉えられていくのか」をデータと共に明らかにすることができます。
 また、ベータ版テストに、1ヶ月〜1ヶ月半程度のダイアリー調査を組み合わせて実施し、長期的なログをとりました。ダイアリー調査の期間は、決済タイミングだけでなく、ショッピング検討から決済をしてから請求書が出て支払うタイミングまでの期間を包括的に調査することで、リアルな時間経過のもとユーザーの様子を観察する狙いがあります。プロトタイプを使う調査は、検証項目が明確なテストに向いていますがリアルな実態調査には限界があります。ダイアリー調査の場合は、生活に根ざした環境で細かく観察することで解像度の高いインサイトを得ることを目的としています。

定量調査・定性調査の使い分け
 定量調査は仮説を「検証する」役割で、定性調査は仮説を「探索する」役割と言われることが多くありますが、Paidyではこれらの調査をどのように使い分けているのでしょうか。
 Paidyでは、定量調査と定性調査を、仮説の検証や仮説作りに使用します。現在のペイディは、純粋に何かを「探索」する調査よりも、ある程度仮説を持った調査ニーズが高いフェーズにあると感じます。
 データチームが分析した定量データは、ユーザーが実際の行動を示すデータのため、その行動の背景には、どのような理由があったのかを調べるために定性調査を行います。この場合は定性調査を仮説検証の目的で使用していると言えます。量的に把握してその背景(文脈)を理解するために定性調査を活用しています。
 また、例えば、新しいサービスを作る際に、どのような伝え方をすれば良いかを模索するために、プロトタイプを使いながら定性調査を行うケースもあります。その後、定性調査でアイディアが集まった段階で、それを定量調査で量的に把握し検証することもあります。

■ユーザーインタビューのポイント
 定性調査ではユーザーインタビュー(デプスインタビュー)を活用することが多くあります。一対一でユーザーと向き合い潜在的なニーズや、新たな視点のアイディアを引き出します。
 玉島氏はユーザーインタビューを上達させるコツについて、次のように語ります。
 「特にコツとして意識していることはありませんが、インタビューという限られた時間の中で、可能な限りフラットでオープンな関係を構築できる雰囲気作りには気を遣っています。お客様について事前に参照している情報などがあればそのように伝えますし、会話の中でお客様から聞く内容について、自分のことも同様に話すこともあります。
 人はそれぞれ違う価値観を持って、違う生活をしています。その人の生活の中に、ペイディがどのように役立っているのかを寄り添って知るような感覚でインタビューに臨んでいます。お客様のことを理解したいという好奇心が、大きな原動力になっています。また、インタビューをしているうちに、人生相談をされたりすることもあり、そこまで心を開いてもらうために欠かせないのは共感力です。相手を理解しようとする気持ち、オープンでウェルカムな姿勢が相手の心を開きます。
 ユーザーの本音を聞き出し、有益な情報を得るためには、どのようなことに気をつければ良いのか、取材を基にUX MEDIAが考えるポイントをまとめました。

①「あなた」の意見が聞きたいと伝える
 Paidyでは、一般論ではなく「あなた」の意見が聞きたいと最初に伝えるようにしています。ライフスタイルや価値観、お金の使い方、ペイディに対して、あなたが思っていることを知りたいと説明します。なぜなら、買い物やお金の話などは、どうしても「~するべき・しないべき」などといった世間一般の価値観が存在しがちですが、それと違った場合自分の意見を話すことをためらってしまう人もいるためです。そのため、「正解はないのであなたの意見をお聞かせください」と伝えることで本音を聞き出しやすくしています。そのためには、インタビュー中はリラックスしてもらうことも重要なため、「 自由に過ごしてください。何か食べながらでも大丈夫ですよ」と声がけを行い自然体で過ごしてもらうことを心がけます。

②趣旨を丁寧に伝える
 回答が何の役に立つのかを、きちんと説明することでユーザーの協力度は大きく向上します。「本心で回答していただくことで、あなたの意見がサービスに反映されて、使う人全員にとって、より良いサービスになりますよ。」という様な言葉がけをすることで、ユーザーからより多くの回答を得られます。
 また、サービスと直接的な関係のない話題や質問が、どのように役に立つのかも丁寧に説明しておくことが有効です。ユーザーの立場に立つと、理由もわからないのに、わざわざ関係のなさそうな質問や、個人的な質問に積極的に答えようとは思わないはずです。Paidyの場合、購買行動に関する生活文脈全体や、他のお支払い方法に関する質問が、ユーザーからしたら一見関係のないように思われますが、これらがサービス向上に繋がるということを、きちんと説明することで、ユーザーは快く回答をすることができます。

③繰り返し聞いてみる
 インタビューの後半の方に本音が多く出てくる傾向があります。ユーザーが打ち解けてくることに加え、インタビューが進む中で、過去の経験を思い出したり頭の中が整理されてきたりするためです。そのため、最初は「わからない」と回答した質問を、後半にもう一度聞いてみることが有効です。
 また、普段ユーザー自身が考えていること、思っていることだけを聞くのではなく、意識していなかった部分についても一緒に打ち解けながら考えていくことが重要です。そのため、抽象的な話題や回答しづらい内容は、「私の場合こうなんですが」と自分のことを話すことも有効です。

 今回は、Paidyのリサーチについて、リサーチの具体的な手法やユーザーインタビューのポイントを紹介させていただきました。実践的なお話を伺っていく中で、目の前のユーザーへの配慮がサービス全体の向上に繋がっていることが分かり、今回インタビューに応じていただいたお二方の人間力の高さが垣間見えました。
 次回の記事では、PaidyのUXライティングについて紹介させていただきます。2024年1月24日公開予定です。

■取材にご協⼒いただいた企業様
 株式会社Paidy
  所在地:〒107-6212 東京都港区⾚坂 9-7-1ミッドタウン・タワー12階
  代表取締役会⻑:ラッセル・カマー
  代表取締役社⻑ 兼 CEO:杉江陸
  設⽴:2008年
  事業内容:あと払いサービス「ペイディ」
  コーポレートサイト:https://corp.paidy.com/