前回に引き続き、PaidyのUXデザインについて、インタビュー内容を元にご紹介させていただきます。前回PaidyではUXを概念として、どのように捉えて表現しているのかを、エクスペリエンスチームを総括する佐々⽊⽒にお話を伺いました。
まだご覧になっていない方は、こちらからご覧いただけます。
https://ux-media-qtm.com/paidy-ux-1/
今回の記事では、全社的にUXに取り組んでいるPaidyが、UXデザインのプロセスやチーム作りについて、紹介させていただきます。
UXデザインのプロセス
まずは、Paidyが実践しているUXデザインのプロセスと、UXデザイナーの役割について、新規機能を開発と既存機能の改善の場合に分けて説明していきます。
■新規機能の開発
新規機能を開発する際、最初に必要なのが「ユーザー理解」です。 消費者と市場のインサイトを複数の機能横断的なチームでリサーチします。Paidyのエクスペリエンスチームの UXリサーチに加えて、データサイエンス、カスタマー/マーケットリサーチの部署が担当しています。(図:ペイディのエクスペリエンスチーム)リサーチで得たインサイトに基づき、課題をビジネスへの貢献度や優先順位を考えながら整理していきます。その後、デザイナーとプロダクトエンジニアが解決策を練る「ディスカバリーフェーズ」に入ります。その後、初めて具体的な設計に入っていきます。
新規機能開発の際にUXデザイナーがどのような役割を果たしているかと言うと、まずは顧客満足度やサービス全体の体験の一貫性のチェックです。UXデザイナーは、一貫してユーザー視点でプロジェクトに参加することが求められます。
佐々木氏は、UXデザイナーの役割について、「UXデザイナーは降りてきた指示通りに設計をするのではなく、初期段階から参加し課題解決を行う役割を担う重要なポジションです。また、ビジネス視点とユーザー視点は同じ方向にあり、顧客体験を良くすることがビジネスに貢献し、ユーザーの快適、喜びにも繋がります。」と語っています。
■既存機能を改善する際のUXデザイナーの役割
新規機能がリリースした後も、UXデザイナーはプロダクトを継続的に見直し、課題や改善点を発見する役割を担っています。また、ビジネスの目標を達成させるために、理想の顧客体験を可視化することも重要な役割です。視覚的に実現可能な未来像を描き、実現させることで、チーム内の認識、意識を揃えています。
また、既存機能を改善していく際に、カスタマーサポートとの連携も欠かせません。ユーザーからの問い合わせの情報を頻繁に共有することで、影響力が大きい改善の優先度を考えるための情報として活用しています。また、問い合わせから顧客体験が著しく下がるケースを発見することもできます。ログインが出来ない等の情報がリアルタイムで連携されるため、課題を早期に発見できることにも繋がります。
ペルソナ・ジャーニーマップの活用方法
■ペルソナは作らない
Paidyでは、基本的にはペルソナは作成せずユーザー層を興味関心や行動習慣で分けるセグメンテーションのみを行っています。これには、特定の人物像にデザイナーや他社員が固執してしまうことを避ける狙いがあります。ペイディの顧客層の特性上、様々な欲求や興味関心を抱えるユーザーが幅広く存在するため、ペルソナに恣意的な情報を盛り込んでしまうことで、ユーザーに対する間違った認識を助長してバイアスがかかることを避けています。以前はペルソナを作成していましたが、ユーザーを偏った視野で認識してしまうリスクが大きいことが分かり、バイアスがかかる弊害の大きさを実感したと佐々木氏は語ります。その経験から、現在の方法に辿り着きました。
■ジャーニーマップの活用方法
ジャーニーマップは、一貫した視点でその全体像を把握するのに役立ち、並行して機能開発を進める際に発生し得る問題を回避することにも繋がります。Paidyでは、新規機能開発や既存機能の改善等、様々なプロジェクトを同時並行で進行しているため、あるプロジェクトの改善が、別のプロジェクトに影響することが多くあります。そこに存在する依存関係や、それぞれのプロジェクトの影響力をデザイナーが把握するために、ジャーニーマップを活用しています。Paidyでは最新の情報を把握しておくために、サービスに変更が加えられる度にジャーニーマップを更新しています。
ジャーニーマップを作成する際には、ユーザーの行動や感情を定義づけるものとして、カスタマーセグメントを包括的にカテゴライズしたマップを使用しています。ユーザーの行動・関心が特徴的に異なるセグメントを、マーケットリサーチやUXリサーチ、そしてデータ分析を元に定義して複数の種類にまとめています。顧客体験のマッピングは、設計する体験に対応したセグメントごとに行います。この際にペルソナを使用していないのは、ペイディの提供価値はひとつではなく複数存在していること、またユーザーのお買い物の対象は多岐にわたるため、ペルソナという形式を用いると数が多くなってしまい実用性が失われることが理由として挙げられます。
UX人材育成
■オーナーシップの経験で提案力・問題解決力を育む
Paidyでは、どのプロジェクトに関しても、 チーム 内外の利害関係者の意見を収集してデザイン をリードする「オーナーシップ」を持つメンバーを毎回1人決めています。これには、ゴールに向かって議論を収束させるスピードを早くする狙いと、各デザイナーがプロジェクトを主体的に進めリードしていくためです。佐々木氏は、UXデザイナーに必要なスキルについて、「私が今まで見てきた経験では、デザイナーが他の部署から課題を与えられて、UI/UXのフローを作って、そのリクエストした人に提出するようなフローに陥るケースが多いですが、UXデザイナーとしては不十分だと考えています。 UXデザイナーは、顧客体験に自分から問題を発見し、解決していくことが重要です。そのためには、課題を見つけ、ステークホルダーを巻き込み、開発状況を把握して、デザインをお客様に届けるまでをリードしていくスキルが必要だと考えています。私たちはコンサルティング会社ではなくコンシューマーサービスの事業会社です。主体的に問題解決を実現するための提案力・実行力を伸ばしていくことに力を入れています。」と、語っています。
■多様性を大切にしている理由
Paidyでは、多国籍のメンバーが多く在籍しており、チーム全体の多様性を重要視しています。その理由として、ユーザーの抱える問題を単一の文化や常識で考えると、本質的な解決が出来ないことが挙げられます。様々なバックグラウンドを持ったメンバーから、多角的な意見が出るようにすることで、合理的な議論や判断ができるようになります。この際の「合理的」とは、課題の重要度を考える際のロジカルシンキングやクリティカルシンキングを指します。革新的な解決法を出すためには、様々な立場の人の考え方を用いる必要性があるため、「多様性」は欠かせない要素であると言えます。
また、ペイディは日本人向けのサービスですが、海外からの視点がとても重要な役割を果たしています。均一で単一の文化や常識を持ったチームではなく、日本の文化や特性を客観的・本質的に捉える視点がチームにあることで、人間が本質的に使いやすい(ユニバーサルな)設計が可能になり、イノベーションが起こりやすくなり、サービスの成長へと繋がっていきます。
まとめ
今回は、Paidyが実践しているUXデザインの手法や、人材育成について、佐々⽊⽒に紹介していただきました。UXデザインの手法を、Paidyに合った形で実践し、独自の狙いがある点が印象的でした。UXデザイナーの役割や、求められるスキル、チーム作りについても、具体的なお話が伺えました。
次回は、Paidyのリサーチについて、UXリサーチとカスタマー/マーケティング部署の方にお話を伺った内容を元に、紹介させていただきます。12⽉20⽇(⽔)公開予定です。
■取材にご協⼒いただいた企業様
株式会社Paidy
所在地:〒107-6212 東京都港区⾚坂 9-7-1ミッドタウン・タワー12階
代表取締役会⻑:ラッセル・カマー
代表取締役社⻑ 兼 CEO:杉江陸
設⽴:2008年
事業内容:あと払いサービス「ペイディ」
コーポレートサイト:https://corp.paidy.com/