前回に引き続き、PaidyのUXデザインについてインタビュー内容を基にご紹介させていただきます。前回の記事ではUXリサーチャーの玉島氏、コンシューマー/マーケットリサーチャーの橋本氏にお話を伺い、リサーチの具体的な手法やユーザーインタビューのポイントについてご紹介しました。
 まだご覧になっていない方は、こちらからご覧いただけます。
https://ux-media-qtm.com/paidy-ux-4/
 今回の記事では、PaidyでUXライターとして活躍する宮崎氏に伺った内容を基に、UXライティングとは何かをご紹介します。

■コピーライティングとUXライティングの違い
 コピーライティングとUXライティングの大きな違いは、その目的にあります。コピーライティングの目的が広告などの「プロモーション」なのに対して、UXライティングの目的は、「プロダクトをスムーズに使えるようにすること」です。コピーライティングの場合は、ユーザーがプロダクトを利用する前に見るものです。プロダクトを知るきっかけとして機能しているため、できるだけ記憶に残すフレーズが有効です。一方、UXライティングはユーザーがプロダクトの利用中に見るものであるため、記憶に残す必要はありません。なるべくユーザーに負担をかけず、スムーズな利用をサポートすることが重要なため、2つのライティングの役割は大きく異なると言えます。



ペイディにおけるUXライティングの役割
 では、実際にペイディのサービスにおいてUXライティングはどのような役割を果たしているのでしょうか。

1、優れた顧客体験を言葉でデザインする
 顧客体験を言葉によってサポートすることが、基本的なUXライティングの役割です。もしも、画面に何の文字もなかったら、ユーザーは何をして良いかが分かりません。しかし、言葉を追加することによって、ユーザーが今の状況や求められていることを把握することができます。
 また、言葉を使い行動を促すことでサービスの課題を解決することもUXライティングの役割です。例えばペイディには以前、新規ユーザーがメールアドレスを間違えて登録してしまうという課題がありました。そこで、ユーザーが確定ボタンを押す前に注意喚起をするテキストを追加しました。サービスの機能や設計に大きな変化を加える前に、既存のテキストを変更したり追加をしたりすることで、最低限のコストで課題解決ができる場合があります。

2、ビジネス成果の創出に貢献する
 UXライティングでは、言葉を使って体験設計をすることでビジネス成果に結びつけることが必要です。ユーザーが使いやすいプロダクトを目指すことは、ユーザーにサービスを多く使ってもらうことに繋がり、ビジネス成果の創出にも繋がっていきます。
 事例を1つ挙げると、ペイディには本人確認の完了率が低いという課題がありました。本人確認をすることで多くのサービスが利用できるようになり、ユーザーにとっての利便性が向上するのですが、その必要性があまり認識されていない状態でした。そこで、UXライティングで3つの工夫をしたことで、本人確認の完了率を大幅に向上させることができました。

 1つ目は差分を表示することです。本人確認をする前後で、どのような違いがあるのかをひと目で分かるように表しました。2つ目は「他の多くのユーザーが既に本人確認     を申し込んでいる」という文言の追加です。これは、社会的証明の原理を活用しており、自分の判断よりも、社会の多数である他人の判断の影響を受け、それに従った行動をする心理を活用したものです。3つ目は理由の説明です。なぜ本人確認が必要なのかという説明を追加することで、ユーザーに納得してもらえるようにしました。結果的に画面の数としては2画面増加しましたが、この3つの工夫を加えたことで本人確認の完了率は大幅に向上し、ビジネス成果にも大きく貢献しました。
美しい言葉やわかりやすい言葉を書くだけではなく、ビジネス成長に貢献する言葉を書くという意識はUXライターに欠かせない視点と言えます。

■UXライターの役割
 UXライターのチーム内の役割について宮崎氏は、課題解決が最も重要だと語ります。一般的なアプリのライターと聞くと、デザイナーが設計したワイヤーフレームに文章や文言を入れていく作業をイメージする方も多いかもしれませんが、実際はその段階でライターに声をかけるのでは遅すぎると宮崎氏は言います。
 UIが固まった状態では、そのテキストボックスに入るテキストしか入れることができないことに加え、課題解決の手段がテキストのみとは限らないためです。アイコンを変更したり、イラストで説明を行うことで問題を解決できることがあり、その方がユーザーにとって良い体験である場合があります。このように、文章の内容だけではなく、伝え方の手段も一緒に考えることがUXライターの重要な役割です。
 また、「誰に見せるのか」ということもUXライターは考える必要があります。例えば、新規ユーザーに伝えたいことと、既存ユーザーに伝えたいことは異なり、それぞれに必要な情報のみを表示することでスムーズな体験を実現しています。また、テキストを表示するタイミングも重要な鍵を握ります。読み手が必要とする情報を適切なタイミングで表示するために、UXライターは、UXデザイナーと同様、プロダクトの体験設計に開発の初期段階から参加する必要があります。

■アイディアの発想方法
 日々様々なトレンドが生まれ、様々なサービスが絶えず更新されている今、UXライターとして日常的にどのようなインプットをされているのかを宮崎氏に伺いました。

1、ユーザーとして様々なサービスを使ってみる
 自分自身がユーザーとして、まずは様々なサービスを使ってみることでユーザー視点の学びが得られます。宮崎氏はデジタルプロダクトに限らず、全てのサービスが参考になると語ります。身の回りにある様々なサービスを使う際に、言葉に着目して使い心地や使っている最中にどのような感情になったのかを意識することで、ユーザー視点のアイディアが蓄積されていきます。

2、人気のあるコンテンツ、エンタメに触れる
 世の中で今何が流行っているのかを把握しておくこともアイディアの発想に繋がります。ドラマやアニメ、音楽等は、その時代の言葉遣いやトレンドを把握するのにとても便利です。言葉は生活と密接に結びついているため、生活の中のあらゆるコンテンツに目を向けることで、トレンドの背景を知ることができます。文化的な背景を知ることは、ユーザー理解を深め、新たなアイディアを発想するきっかけにもなり得ます。

3、SNSで情報収集をする
 UXという言葉が以前よりも浸透した今、SNSでは「この画面が使いづらかった」等というユーザーの一次情報が多く得られます。また、ハッシュタグ等で言葉のトレンドを知ることもできるため、アイディアを考える際の参考になります。

 今回は、PaidyのUXデザインにおけるUXライティングの役割を紹介させていただきました。開発の初期段階からUXライターが参加していく必要性や、課題解決を念頭に主体的にプロジェクトに関わっていくことで効率的にビジネス成果を挙げられることを学びました。
 次回の記事では、Paidyが実践するUXライティングの特徴やポイントについて詳しくご紹介させていただきます。2月7日公開予定です。

■取材にご協⼒いただいた企業様
 株式会社Paidy
  所在地:〒107-6212 東京都港区⾚坂 9-7-1ミッドタウン・タワー12階
  代表取締役会⻑:ラッセル・カマー
  代表取締役社⻑ 兼 CEO:杉江陸
  設⽴:2008年
  事業内容:あと払いサービス「ペイディ」
  コーポレートサイト:https://corp.paidy.com/