前編に引き続き、ぐるなびが行なっている、ユーザー理解の取り組みを紹介していきます。
前編では、トレンド発信の予測・検証の部分に焦点を当て、それぞれのフェーズで定性調査と定量調査がどのように使い分けられているのかを、ぐるなびリサーチ部を担当する本間氏に紹介していただきました。目的に応じた調査方法の選択や質問項目を設計する際のポイントが紹介されています。まだ読んでいない方は、こちらの記事をご覧ください。
ぐるなびが定量×定性で進める トレンド発信のためのユーザー理解(前編)〜「わざわざグルメ」はどのようにして誕生したのか〜
後編では、ぐるなびが行なっているユーザー理解の取り組みをエスノグラフィの観点から紹介します。
また、トレンドを発信するプロセスの中でも、デザインに焦点を当て、トレンドを言葉にする際にどのようなことを意識しているのか、前編に引き続き、ぐるなびリサーチグループ部を担当する本間久美子氏にお話を伺ってきました。
エスノグラフィによるユーザー理解の取り組み
ユーザーを理解するためのリサーチには、定量調査と定性調査を組み合わせて使用します。定性調査は、ユーザーの体験価値・本質的なニーズの仮説を立てる際に重要な役割を果たします。ぐるなびでは、定性調査の一貫として、エスノグラフィを実施しています。
■現場をより知る行動観察
ぐるなびリサーチ部では、実際の飲食店での行動観察を行います。その際、どのような点に着目しているのかを本間氏に伺いました。本間氏は、飲食店を訪ずれる際に、ジャーニーマップを頭の中でイメージし、ユーザーの一連の行動を思い浮かべると語ります。定量調査の結果と照らし合わせながら、現場にいるユーザーをあらゆる視点から観察し、検証を行います。
ぐるなびにとってのユーザーは、利用客だけではありません。ホールスタッフや厨房で働くスタッフも同様に、ユーザーと考えます。本間氏は、厨房の中の様子や設備、接客等にも着目をしながら、その店のコンセプトを考えることが多いそうです。様々なユーザーの視点に立ち、現場を「より知る」ことで得た情報は、調査設計や課題仮説を立てる際に役に立ちます。
また、食のトレンドは他の業界と密接に繋がっています。アニメキャラクターが食べていた料理や、昭和レトロブームでは喫茶店メニューがトレンドに繋がるという事例が挙げられます。
そのため、飲食業界だけではなく、他の業界の最新情報にもアンテナを張り、「流行っているものは積極的に試してみる」を心がけていると語ります。旅行ができなかったコロナ禍に、「海外の料理を食べたい」という需要が高まり、韓国料理や台湾料理がトレンドとなったケースなど、旅行と飲食が関係しているケースもありました。
■参加することで得られる気づき
ぐるなびは、新規サービス事業のテストマーケティングを行う、直営実験店舗として、実際に飲食店の運営も行なっています。自らが運営することで、飲食店側のユーザー理解を進めています。リサーチ部でも、よりリアルなユーザーの情報を得るために、直営店のスタッフとして作業にあたることもあります。本間氏は、「アンケートで得られる情報はあくまで二次情報なので、自分の目で直接確かめることが重要」と語っています。
行動観察では、ユーザーの生活や状況の中に埋め込まれた「当たり前」や、「本当はしたいけれどできないこと」など、言葉やデータでは語られない事実に気づくことができます。そして、それらの理由や背景を分析していくことで、ユーザーの本質的なニーズに近づいていくのです。
食のトレンドに見るUXデザイン
■トレンドを「見える化」
外食を起因とするメニューがトレンドとなり、定着するまでの流れをぐるなびでは3つの段階に分析しています。初期の段階に個店での取扱が始まり、中期には複数店舗へ拡大し、社会現象となってメディアから注目されます。最終的には中食から内食へと変化し、定着していきます。このように、時系列での一連の流れを「見える化」することがUXデザインの指標にも繋がっているのです。
■トレンドを発信する目的
トレンドを発信する目的を本間氏に伺いました。
「トレンドを発信することの目的として、まずは外食の発展があります。多くの人がトレンドを見て、お店に行ってみたいと思い、足を運んでくださることが、何よりも喜びです。また、そこには外食をより楽しく特別な体験に繋げていきたいという想いが根底にあります。我々のビッグデータや、スピード感のある調査を元にしたトレンド発信で話題性を高めていくことで、より社会に浸透させ、ユーザーが、トレンドを自身の生活に取り入れることで、より豊かな体験に繋がっていくことを目指しています。」と語ります。
トレンドの発信は、飲食店の利用を通して得られるひとつのUXだけではなく、積み重ねることで、ユーザーの生活に新たな選択肢をもたらすという長期的なUXにも繋がっています。外食を多く利用してもらうことで、「ユーザーにとって、どのような価値をもたらすのか」という、ユーザー視点の目的も設定されていることが取材を通して分かりました。
■トレンドを持続させ、広がりを持たせるネーミング
トレンドをユーザーの生活に定着させるには、長い期間で使用できる言葉を選ぶ必要があります。では、どのようなポイントに気をつければ良いのでしょうか。
リサーチ部のトレンドの言葉選びでは、わかりやすさと印象に残るかが重要なポイントです。ターゲットは限定せず、インターネット上で拡散しやすい文字数や、使う人を限定しない言葉を選択することで、幅広い層に受け入れてもらう工夫がされています。
その一方で、表現に余白を残すことで生まれる効果もあります。限定しすぎない表現を使うことで、人によって様々なメニューを連想させることができます。その結果、幅広いメニューがトレンドの対象となり、広がりが出ます。表現の余白は、ユーザーに自由な発想を促し、ユーザー自身がメニューを発見・発信し、トレンドに参加していくことに繋がります。
UXデザインには、経験経済という、ユーザーが価値を手にするための一つの手段として、企業が製品やサービスを提供するという視点があります。「ユーザーに価値を与える」のではなく、「ユーザーが参加して価値が生まれる」という考え方です。
トレンドの料理がユーザーに定着する過程で、ユーザーが主体的に参加する機会を多く与えることで、UXの質を更に向上させていると考えられます。
■ギルティグルメの例
広がりを見せたトレンドのひとつに「ギルティグルメ」があります。「ギルティ」つまり罪深いと感じる感覚には男女差があり、想定していたよりも多くのメニューが「ギルティグルメ」となりました。「ギルティグルメ」という新たな選択肢をユーザーの食生活に与えたことで、「ギルティ」という言葉自体も普及し、ユーザーは新たな「価値観」を手にしたとも捉えられます。
まとめ
今回は、ぐるなびで行なっているユーザー理解のための取り組みを、エスノグラフィの観点で、ぐるなびリサーチ部を担当する本間氏に紹介していただきました。また、トレンドを発信する目的と、それを実現するためのデザインについても伺うことができました。
トレンドを一時的な流行としてユーザーに与えるのではなく、参加をしてもらいながら、ユーザーの生活自体を豊かに広げていくというUXの設計が印象的でした。
「飲食店での体験」というひとつのUXが積み重なることで、「ユーザーの生活を豊かにする」という長期的なUXへと繋ります。
そして、トレンドを発信する裏側には、ユーザーを理解するための地道な取り組みがありました。この取材を通して、トレンドの発信もまた「食でつなぐ、人を満たす」という、ぐるなびのパーパスに繋がっているのだと実感しました。
ぐるなびリサーチ部の本間様、この度は取材にご協力いただきありがとうございました。
■取材させていただいた企業様
株式会社ぐるなび
所在地:〒100-0006 東京都千代田区有楽町1-1-2 日比谷三井タワー11F
代表者:代表取締役社長 杉原 章郎
設立:1989年10月2日
事業内容:パソコン・スマートフォン等による飲食店等の情報提供サービス、
飲食店等の経営に関わる各種業務支援サービスの提供その他関連する事業
URL:https://corporate.gnavi.co.jp/