UXデザインを始めるために最初に必要な作業はユーザー理解です。
ユーザーの行動や思考、感情を把握し共感することで、ユーザーが本当に必要としているサービスやプロダクトを作ることができます。
食の情報を配信するポータルサイトの運営や、飲食店への手厚い販売促進支援を行う株式会社ぐるなび(以下、ぐるなび)では、飲食店の利用客はもちろん、飲食店を経営・運営する方も「ユーザー」にあたります。「ユーザー体験」の質を向上させるために、ぐるなびではどのようなユーザー理解の取り組みが行われているのでしょうか。
今回は、食のトレンドを発信するリサーチ部の方にお話を伺ってきました。食の最新トレンドである「わざわざグルメ」のリリースまでの道筋を辿りながら、トレンドリサーチにおけるユーザー理解の取り組みを紹介していきます。取材にご協力いただいたのは、CX部門戦略推進室リサーチグループグループ長の本間久美子氏です。
ぐるなびは、「食でつなぐ。人を満たす。」というパーパスを掲げ、パソコン・スマートフォン向けの飲食店情報提供サービスや経営に関わる各種業務支援サービスの提供を展開している会社です。
■わざわざグルメ概要
わざわざグルメとは、ぐるなびがひとつのトレンドとして発信したもので、来店客自身が料理を仕上げたり、ドリンクを作ることを楽しみながら体験できるメニューを指します。コロナ禍を経て、会食やコミュニケーションの楽しさなどの「体験性」に関心が集まると予想し、発表されました。
定量調査と定性調査
ユーザー理解を行うためのリサーチ方法として、定量調査と定性調査があります。それぞれの目的は異なり、時には組み合わせて使うことで、ユーザー理解をより深く得ることができます。
今回は、食のトレンドを発信する過程で、定量調査・定性調査がどのように使い分けられているのか紹介していきます。
トレンド発信の流れ
1、予測 【定量】
先ず、トレンドを予測する段階で用いるのは、定量調査です。
ぐるなびでは、ビッグデータを専門に扱うチームがトレンドの予測を行っています。増えている検索ワードや飲食店で取り扱うメニューの種類をデータとして蓄積しており、それらをもとにトレンドの予測を行います。予測の過程で、「流行るかどうか」を判断する時には、蓄積されたデータより、過去の傾向と現在の傾向を見比べて判断をします。
2、検証 【定量×定性】
次に、予測したトレンドをアンケート調査で検証していきます。予測した仮説を検証することが目的なので、その際に用いるのは、定量調査です。
ぐるなびでは、トレンド予測にあたって、アンケート対象者を毎回1000サンプル、年齢・性別・地域が全て均等になるよう70万人以上のアンケートモニターから抽出しています。
■リサーチ部は「素早さ」が命
ぐるなびリサーチ部では、調査に3日、そして世の中に発信するまでに1週間というタイトなスケジュールで、調査設計から発信までを行っています。ユーザーの興味関心は常に変化し、トレンドもそれに合わせて常に移り変わります。機会損失を避けるためにも、調査に時間をかけるわけにはいかないのです。
では、素早いリサーチするためにはどのようなポイントに気をつければ良いのでしょうか。
素早いリサーチを行うために重要なポイントは質問数です。リサーチ部では、質問数を5問〜10問に絞ることにより、調査にかかる時間を最低限に抑えています。
ただ、この少ない質問数で正確な結果を得るには、目的に応じた質問項目の設計が重要です。過去に実施した内容と同様の調査であれば、以前と同じ質問を入れて回答を比較することで、調査結果の差を明確化させます。一方、トレンドに関しては、「ユーザーはなぜそのトレンドを求めているのか」を知る必要があるため、シーンを絞って質問し、より具体化させることで理由や背景が可視化しやすいよう、ストーリーを考慮した質問項目の設計にします。
■わざわざグルメの場合
「わざわざグルメ」の質問項目を見てみると、ユーザーが「トレンドを求める理由や背景が分かるもの」を中心に厳選されています。YES・NOで答えられる質問から始めている点や、限られた質問項目数の中で、最短距離で聞きたいことを聞く質問項目の設計に、ぐるなびからユーザー側への負担を減らす工夫が見られます。
ユーザーが心地よく回答出来る質問項目の設計をすることで、正確なデータを得られるだけではなく、調査に協力してくれるユーザーにも「また協力しよう」と思ってもらいやすくなるのですね。
■「なぜ?」を深堀りする定性調査 【定性】
素早さが命のリサーチ部では、定量調査を中心に行います。しかし、トレンドの検証を進めていくと数字で大体の傾向は掴むことができても、ユーザーの意識や行動の理由などの「なぜ?」の部分が分からないことも多くあります。それらを明らかにするために、デプスインタビューや行動観察、デスクリサーチなどの定性調査を行います。定性調査で仮説を絞った後、改めて定量調査で検証をするというステップでトレンドをより具体的にしていきます。
リサーチ部の役割とは
本間氏は、「初めは、もっと質問を入れたら、もっと詳しく分かるのにという思いが強くあり、5問という限られた質問数では勿体ないと思っていた。しかし今は、短期間で結果を出すリサーチ部が、ひとつのジャンルとして確立されているのだと考えられるようになった。素早く結果を出す調査と、細かく知る必要がある調査をすみ分けて、必要に応じてアンケートの形を変えていく必要があることを理解できるようになった。」と語っています。
トレンドを発信することがリサーチ部の役割です。目的を考慮して、調査方法を選択し、知りたい内容に応じて質問項目を設計することが必要であり、調査の設計から実施までを素早く行うことが、リサーチ部には求められているのです。
まとめ
「調査を行う目的は何か」を意識した調査方法の選択が、リサーチ結果の質を大きく左右します。
「予測したトレンドを素早く検証する際には、定量調査を用い、その調査結果の理由や背景を深掘りする際には、定量調査と定性調査を組み合わせて検証を行う。また、アンケート調査においては、トレンドの種類に応じて質問内容を厳選することで、トレンドの理由や背景を予測することができる。」
今回はトレンドを発信するプロセスの中でも、予測と検証の部分に焦点を当て、そのリサーチ方法を定量調査・定性調査の使い分けという観点でぐるなびリサーチ部を担当する本間氏に紹介していただきました。次回は、ユーザー理解の取り組みをエスノグラフィの観点で紹介します。そして、トレンドを発信する目的から読み解く、UXデザインについて深堀りしていきます。
■取材させていただいた企業様
株式会社ぐるなび
所在地:〒100-0006 東京都千代田区有楽町1-1-2 日比谷三井タワー11F
代表者:代表取締役社長 杉原 章郎
設立:1989年10月2日
事業内容:パソコン・スマートフォン等による飲食店等の情報提供サービス、
飲食店等の経営に関わる各種業務支援サービスの提供その他関連する事業
URL:https://corporate.gnavi.co.jp/