前回に引き続き、PaidyのUXデザインについてインタビュー内容を基にご紹介させていただきます。前回の記事ではPaidyでUXライターとして活躍する宮崎氏に伺った内容を基に、UXライティングとは何かについてご紹介しました。
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https://ux-media-qtm.com/paidy-ux-5/
 今回の記事では、引き続きPaidyでUXライターとして活躍する宮崎氏に伺った内容を基に、PaidyのUXライティングの特徴やUXライティングの効果が分かる事例についてご紹介します。

株式会社Paidy Sr.marketing/UX Copywriter 宮崎直人氏の写真

■PaidyのUXライティングの特徴

1、テキストは一文字でも少なく
 UXライティングには、ユーザーのスムーズな利用をサポートする役割があります。UXライティングはユーザーがプロダクトの利用中に目にするものであるため、コピーライティングとは異なり、記憶に残さずユーザーのアクションを邪魔しない言葉選びが重要です。そのためには、テキストを一文字でも少なくすることをPaidyでは意識しています。下のペイディカードの有効化を案内する例でも分かる通り、文字数が多い左側では言いたいことが瞬時に伝わらず、ユーザーにストレスを感じさせてしまいます。一方、右側では文字数が減ったことで視認性が増し、読みやすくなりました。また、アイコンを加えて注意喚起し、文字の太さを変えたことで、言いたいことが一目で分かるように改善されています。

テキストは一文字だけ少なく、文字数お改善した事例2、エモーショナルデザインを取り入れたUXライティング
 エモーショナルデザインとは、ユーザーの感情に寄り添った情緒的なデザインをする手法のことを指します。UXライティングにも、分かりやすさを重視した機能面のUXライティングと、ユーザーにもっと使ってみたいと思ってもらったり、よりサービスを信頼してもらうことを目的とした情緒的なUXライティングがあります。サービスがシンプルで分かりやすく正しく機能が伝わっている状態になったら、情緒的なメッセージを伝えていくことで、ユーザーの継続的な利用やエンゲージメント向上に繋がります。
 Paidyでは、提供価値の1つに「“Delightful”な体験を⽬指す」を掲げており、快適で分かりやすい状態は必要最低限な要素であり、そこに何かを達成できた時の満足感や、将来に対する期待感を感じてもらうことを目指しています。情緒的なUXライティングも、この提供価値を実現する要素の1つと言えます。

2 エモーショナルデザインを取り入れたUXライティング3、Paidyらしさを出すためのUXライティング
 サービスの世界観を考慮したUXライティングは、ブランドにとって不可欠なもので 、他のサービスとの差別化にも繋がります。Paidyでは、ダイバーシティ&インクルージョンというカルチャーを大切にしており、人材の多様性がサービスの価値の最大化に繋がると考えられています。
 宮崎氏は、UXライターとして仕事を進めていく中で、周りのメンバーに相談をすることで新たな気づきを得ることが多くあると語ります。その1つの事例として、ダミーの名前をTARO YAMADAと設定していたところ、「お客様には男性も女性も、それ以外の方もいるためジェンダーに配慮した名前にした方が良い」という意見があったと言います。日本では、山田太郎、山田花子と言ったダミーの名前は一般的ですが、国や文化の異なる人がチーム内にいることで、新たな視点や気づきが得られます。結果的に、ダミーの名前はAYUMU YAMADAという、どんな性別にも使えるニュートラルな名前になりました。AYUMUという名前には「夢に向かって歩む」という意味が込められていて、ブランドのパーパスである「夢に自信を、心に余裕を持てる世界を作る」にも合致しており、ペイディらしさを表現している重要なUXライティングの1つと言えます。

UXライターとしてDiversity&Inclusionを感じた事例。ダミーの名前を「TARO YAMADA」から「AYUMU YAMADA」に。性別がニュートラルな名前であり、ブランドパーパス「夢に自信を、心に余裕お持てる世界を作る」にも合致する。」

■ボイスアンドトーン
 UXライティングを進めていく上で欠かせないのが、ボイスアンドトーンの設計です。ボイスアンドトーンとは、企業の個性やキャラクター、言葉遣い等を定義したものを指します。サービスで使われる言葉遣いがバラバラだと、ユーザーにネガティブな印象を与えてしまうため、体験全体で使われる言葉遣いを一貫させることは欠かせません。ボイスアンドトーンを設計することで、ユーザーとのコミュニケーションを円滑にし、サービスに対するエンゲージメントを効果的に高めます。
 Paidyではボイスアンドトーンとして下記の画像にある4つのポイントを掲げています。言葉によるコミュニケーションを大事に、考え抜いた言葉を使うことで、ユーザーに愛着を持ってもらうことを狙いとしています。また、ブランドボイスの指針を言語化して、誰もが見られるような状態にすることで社内の認識を統一させています。ブランドボイスとは、サービスを擬人化した際に、どのような言葉遣いや話し方をするのかを考えたものです。これを言語化し共有することで、判断をする基準になり効率的に開発を進めることができます。
Paidyのボイスアンドートーン また、UIに入れる文言などの用語表記のルールを策定し、共有しています。これらの文言を選ぶ基準は、正しい日本語か、視認性が高いか、分かりやすくシンプルかという項目が重要視されています。また、金融サービスならではの堅苦しい、難しいといった印象を与えないよう、親しみやすい表現を優先することも心がけていると言います。そのためには、漢字表記よりもひらがな表記を多く採用しています。

Paidyで実際に使用されている用語表記ルール

■効果測定
 Paidyでは、UXライティングの効果測定にABテストを用いています。最初は少人数でテストを行い、成果が出たものだけを規模を広げて展開する方法でテストを行っています。ABテストを行う際には、他の条件を厳密に揃えることに気をつけます。テキスト改善の検証をする際には、デザイン等のテキスト以外の条件は揃えます。下の図で言うと、パターンAとパターンDの比較はできないと言うことです。
 また、ABテストを行っていると、行った検証を別のプロジェクトの検証で活かせることが多くあります。例えば、短いテキストの方がCTRやCVRが高いということがABテストからわかった際には、この学びを他のコンテンツでも活かすことでABテストの効果を最大限に活用することが出来ます。
UXライティングによる指標の向上をABテストで検証
■UXライティングで指標を改善できた事例
実際にUXライティングを工夫したことで成果が上がった事例を2つご紹介します。

1、プッシュ通知の事例
 1つ目がプッシュ通知の事例です。3回あと払いへの変更を勧めるプッシュ通知の文言を「3回あと払い」という機能をそのまま伝えるものから、「支払い金額を調整できる」というユーザーにとっての価値に言い換えを行いました。このような工夫を行ったことで、プッシュ通知の開封率と、期間中の3回あと払い利用率が向上しました。Paidyのボイスアンドトーンにも「機能ではなく価値を伝える」が入っていたように、ユーザーの生活文脈の中で、その機能がどのような価値を持っているのかを表現することでメッセージの訴求力は格段に上昇します。
プッシ通知の改善が分かる画像

2、代引きポップアップの事例
 続いて、支払い方法に代引きを選択していたユーザーにポップアップを表示した事例です。「玄関でお金を用意する必要なし!」とユーザー目線の声がけを表示することで、メリットが的確に伝わり代引きからペイディに支払い方法を変更するユーザーが増加しました。ユーザーが代引きの際にストレスに感じることを想像し、言葉で表現することで、ペイディの便利さを訴求できた事例と言えます。
ポップアップを追加した画面のビフォーアフター

 今回は、PaidyのUXライティングについて、UXライティングの特徴やUXライティングで指標が改善した事例を紹介させていただきました。UXライティングを行う上でどのようなことに気をつければ良いのか、具体的なポイントを学ぶことができました。
 今回の記事で、Paidy様への取材記事は最後となります。Paidy様、お忙しいところ取材にご協力いただき誠にありがとうございました。

■取材にご協⼒いただいた企業様
 株式会社Paidy
  所在地:〒107-6212 東京都港区⾚坂 9-7-1ミッドタウン・タワー12階
  代表取締役会⻑:ラッセル・カマー
  代表取締役社⻑ 兼 CEO:杉江陸
  設⽴:2008年
  事業内容:あと払いサービス「ペイディ」
  コーポレートサイト:https://corp.paidy.com/